補聴器にはどのような種類ものがありますか?
またそれらは今後どのように進化しますか?

聴器の種類はどのようなものがあるでしょうか。またそれはどのような理由で進化してきたものでしょうか。また補聴器は今後どのように進化していくでしょうか。種類が多い補聴器ですが、生活とQOLに密着した器具なので、スペックと価格だけで家電製品を選ぶようには考えられないところがあります。そのため補聴器の来し方行く末をしっかりと説明いたします。

アナログ補聴器とデジタル補聴器

補聴器には様々な種類がありますが、その仕組みから分類すると、デジタル補聴器とアナログ補聴器があります。かつてはアナログ補聴器が主流でデジタル補聴器は後発でしたが、今はデジタル補聴器が補聴器全体の90%を占めるようになりました。その理由は、性能や機能の面でアナログ補聴器よりもデジタル補聴器のほうが優れているところが多いからです。

補聴器とは基本的にはマイクで取り込んだ音を増幅する機械ですが、アナログ補聴器はこの処理をアナログ信号で行っています。増幅だけならば仕組みがシンプルでよいのですが、そのときに音質を調整したり加工したりするのは苦手ですし、それをアナログで行うのは仕組みが複雑になります。
デジタル補聴器はマイクで取り込んだ音をデジタル信号に変換して処理します。デジタル処理技術の発展により、ノイズを消し込んだり、聞きたい音や声を強調したり、周囲の状況に合わせて音質や音量を制御したり、ひとりひとりの耳の状態に合わせて細かい制御を行うなどが可能になりました。

また、デジタル補聴器は小型化にもメリットがあります。デジタル処理の原理はPCやスマートフォンと同じですので、PCやスマートフォンが高性能化しつつ小型化したように、デジタル補聴器も人間の耳という限られた大きさの中で様々な機能をもたせて高性能化するというようになってきています。特にスマートフォンで培われた技術的な進歩の恩恵を直接的に受ける分野ですので、この先飛躍的な技術進歩が期待される分野です。

耳掛け型補聴器と耳あな型補聴器とポケット型補聴器

補聴器を形状で分類すると3つのタイプに分類されます。耳掛け型と耳あな型とポケット型です。他にもメガネ型補聴器というのもあることはあるのですが、非常にシェアが少ないためここでは割愛します。

耳掛け型補聴器は、耳の後ろにかけて使用するタイプの補聴器で、現在もっとも販売数が多く、全体の60%はこれになります。英語ではBTE(Bihind The Ear)といいます。サイズは大きくなりますが、その分だけ高機能にすることができ、その人の聞こえの状態や耳の状態に合わせることができるというのが一番大きな特徴であると言えます。また、大きいということはその分バッテリーの容量がとれるため、電池のもちが良いというのも大きなメリットとなります。

耳あな型補聴器は、耳の穴の中に入れて使用するタイプの補聴器で、全体の35%ほどの普及率があります。耳あな型はさらにサイズによって分類され、大きい順にITE(In The Ear)、ITC(In The Canal)、CIC(Completely In the Canal)となります。どれも耳の穴に入れて使用するのですが、ITCは補聴器の大部分が耳あなの中に入るものとなり、CICになると耳の穴の中にすっぽり入ってしまい、外部から見て補聴器を使用していることがわからなくなります。

ポケット型の本体はタバコの箱ぐらいの大きさで、ラジオ等と同じようにイヤフォンを耳の穴に入れて使います。本体は胸ポケットに入れたり首からぶら下げたりします。本体のサイズが大きく操作が簡単であることや、ハウリングが起こりにくいことが特長です。

今後の補聴器の進化

2015年現在で日本の難聴者率は11.3%となっています。難聴は加齢に伴って生じることが多いので高齢化と関連の高い数字ですが、日本と同程度に高齢化の進んでいる欧米諸国と比較しても高い数字となっています。
しかしその中で難聴者のどれだけが補聴器を使っているのかというと欧米諸国と大きな差があります。欧米諸国では難聴者の30〜40%が補聴器を使っているのに対して、日本では13.5%にとどまっています。
これは補聴器にネガティブなイメージがついているからと思われます。つまり「耳が遠くなる」ことは「年寄り」の典型的な症状であり、補聴器はそのシンボルとして装着するのが恥ずかしいというイメージがあるからと思われます。

これは必ずしも日本だけのことではなく、スターキー社のITC型の補聴器をレーガン大統領が使っていて話題になったということ自体が、アメリカでも同じようなイメージが有ることを示していると言えます。
ですので、補聴器の形状の進化はより目立たない方向へと進化していき、耳の穴に完全に入ってしまって外から見えないCompletely-In-the-Canalというようなものになったのだと言えます。
技術が進化しても人間の体の形は変わらないので、今後は形状的な意味の進化は頭打ちとなるでしょう。しかしデジタル技術はどんどんと発達しており、とくに小型のデバイスで高性能な処理をするという方向は常に追い風が吹いている状態です。今後さらに高性能を目指して発展していくものと思われます。

また、補聴器は「補聴器をしていることを秘密にしたい」「秘密は無理でも目立たないように自然な感じにしたい」という自分の加齢の否定が進化の動機にあったわけですが、AppleのAirPods以来、耳にヘッドセットをつける状態というは定着してきています。もちろんこれは方向性は違いますが、ヘッドホンを付けている姿に対する肯定的な眼差しは1980年代のウォークマンの時代からありました。日本ではあまりありませんが中国や東南アジアなどではBluetoothのヘッドセットを常時装着している中年のビジネスマンをみることがあります。これは実用であると同時に、忙しさやタフさやアグレッシブさを演出する小道具の役割も持っています。
レーガン大統領的な感覚は次第に薄れていき、補聴器は眼鏡と同じような立ち位置になるのではないかと期待できます。

補聴器の未来

もともと電気的な信号増幅を行う補聴器は19世紀に発明された電話機の派生物として、1898年に発明されました。その後は小型化の歴史になるわけですが、アナログで増幅するだけだと雑音まで増幅してしまうので、デジタル化によって音質の改善が図られました。そして今はスマートフォンのような意味のスマート化が進めらています。
おそらくこの先の2030年頃に来るのは生活の質(QOL)を高める方向の進化でしょう。10年後はIoTや5Gなどで、スピーカーによるアナウンスメントと同じような使い方で生活シーンの中でデジタルデータ通信が使われるようになるでしょう。そうなってくると、難聴であるかどうかに関わらずに補聴器(と同じ機能を持つデバイス)を装着するようになるかもしれません。そしてそうなると「生活シーン」に対する適用性は飛躍的に向上するものと思われます。

このような発展を遂げるのは補聴器だけではないので、今スマートフォンの技術的進化を追い風として受けているように、他のデバイスの進化も追い風として受けるようになるでしょう。例えば国産の補聴器は防水機能を世界に先駆けて開発しました。これは日本が多湿だからという状況に合わせた進化だったのですが、これも単なる防水ではなくて、お風呂の中でも使えたり、スポーツ(汗をかく状況)中も問題なく使えたり、就寝中も装着可能というように変わっていくでしょう。